まもるノート

おすすめツールと、なぜ安全なのか

Karpathy氏の記事「Digital hygiene」(2025年3月)で紹介されたツールを中心に、類似品と比べます。どれも「完璧」ではなく、仕組みを理解して選ぶことが大切です。料金・仕様は変わるため公式サイトで確認してください。

パスワードマネージャー: 1Password

なぜ安全か: 保管庫(パスワードの保存場所)はあなたの端末の中で暗号化されます。鍵はマスターパスワードと、あなたの手元にだけある秘密の鍵(端末で作られ、1Passwordには送られない128ビットの鍵)の2つから作られます。そのため、サーバーのデータが盗まれても、総当たり(パスワードを片っ端から試す攻撃)で解くのは現実的でないように設計されています。1Password Security / White Paper

製品特徴注意点
1Password手元にだけある秘密の鍵を使う2鍵方式、使いやすい、家族共有、パスキー保存有料のみ(14日間の無料体験あり) 料金、プログラムの中身は非公開(第三者による点検の結果は公開)
Bitwarden設計図(プログラム)が公開されている、無料プランあり、第三者による点検の結果を公開、自分のサーバーで動かすことも可マスターパスワードの強さに左右される。パスワードを解かれにくくする計算の設定を確認(詳しくは下の「もっと詳しく」) 公式
LastPass老舗・普及2022年の不正アクセスで顧客の保管庫のバックアップが盗まれた。パスワードは暗号化されていたが、保存サイトのURLは暗号化されておらず、マスターパスワードが弱いと解読されるおそれがある。英国の個人情報保護当局(ICO)は2025年12月、この件で120万ポンドの制裁金を科した LastPass公式通知 / ICO発表
ブラウザ内蔵(Chrome/Safari等)無料・手軽。Apple「パスワード」アプリやGoogleパスワードマネージャーも改善中情報を盗むウイルス(インフォスティーラー)に感染すると盗まれる。栃木県警は重要なアカウントを専用のパスワード管理アプリで管理するよう勧めている 栃木県警。メーカーの違う端末間では使いにくい。端末ロックが甘いと丸見え
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Secret Key
1Passwordが端末内で作る128ビットの鍵。本文の「手元にだけある秘密の鍵」のこと。1Passwordのサーバーには送られず、あなたの端末と緊急キット(Emergency Kit)にだけ保管される
オープンソース
誰でもプログラムの中身を確認できる形で公開されたソフト(Bitwarden)。1Passwordのソースは非公開だが、第三者監査は公開している
KDF
マスターパスワードから鍵を作る、わざと時間のかかる計算。回数が多いほど総当たりに時間がかかる
PBKDF2 / Argon2id
KDFの方式。BitwardenではPBKDF2の既定は60万回で、Argon2idも選べる
第三者監査
外部の専門家が安全性を点検すること

参考: Secret Keyの仕組み(1Password) / BitwardenのKDF設定

2段階認証: パスキー / ハードウェアキー(YubiKey)

なぜ安全か: パスキーやセキュリティキーの共通規格では、秘密の鍵が端末やキーの外に出ず、ログイン先の本物のサイトとだけ結びついているため、偽サイトでは使えません(フィッシングに強い)。SMSで届くコードは電話番号の乗っ取りや、偽サイトがコードをその場で本物に横流しする手口に弱いです。金融庁は利用者に向けて、証券会社などがパスキーなどフィッシングに強い認証を提供し始めたら、すぐに設定するよう呼びかけています。2026年4月には、銀行・証券などの業界と一緒に、利用者向けにパスキーなどの利用を広く呼びかける広報も行っています。FIDO Alliance / 金融庁(注意喚起) / 金融庁(2026年4月の広報) / Yubico

方式強さコメント
ハードウェアキー(YubiKey、Google Titan等)◎2〜3本用意して別の場所に保管(紛失対策)
パスキー(スマホやパスワード管理アプリに保存)◎手軽で、フィッシングに強い。対応サイト(Google・Apple、導入が進む証券会社など)から順に
認証アプリ(6桁のコード)○SMSより安全。ただし偽サイトにコードを入力すると突破される
SMS・メールのコード△無いよりはずっと良い。重要なアカウントは上の方式へ
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FIDO2 / WebAuthn
パスキーやセキュリティキーの共通規格。WebAuthnはブラウザでパスキーを使うための規格。本文の「パスキーやセキュリティキーの共通規格」のこと
SIMスワップ
本人になりすまして携帯会社にSIMを再発行させ、電話番号を奪う手口。SMSのコードが犯人に届いてしまう
TOTP
認証アプリの、30秒ごとに変わる使い捨てコードの方式
フィッシング耐性
偽サイトに誘導されても突破されにくい性質

金融庁の注意喚起ページは、各証券会社等でパスキー認証などフィッシング耐性のある多要素認証の必須化が進んでいるとし、「提供が開始された場合には、速やかに利用設定を行ってください」と利用者に求めています。2026年4月16日の「フィッシング耐性のある多要素認証等に係る官民一体・業界横断的な広報」は、国民に周知するための広報で、金融機関は連携先として参加しています。

メッセージ: Signal

なぜ安全か: すべての会話が最初から、送る人と受け取る人だけが読める暗号化で守られます。その暗号のやり方(Signalプロトコル)は公開され、検証されています。非営利団体が運営し、「誰がいつ誰と話したか」といった記録もサーバーに残しにくい設計です。実際、政府や捜査機関からの開示要求に対して出せたのは、登録日時と最後に接続した日時くらいだったと公開しています。Signal: 政府からの開示要求の記録

アプリ送る人と受け取る人だけが読める暗号化コメント
Signal標準で全て消えるメッセージ機能。日本では利用者が少ない
WhatsApp標準(Signalプロトコル)Meta傘下。会話の中身は読めないが、利用状況・端末・接続(ネット上の住所のような番号など)の情報は集められ、Meta各社と共有される プライバシーポリシー
LINELetter Sealingで1対1・50人以下のグループのトークと1対1通話は標準で暗号化国内標準。グループ通話・オープンチャット・公式アカウントとのトーク、Apple/Googleへのバックアップは対象外 LINE暗号化状況レポート2025
SMSなし大事な話には使わない
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エンドツーエンド暗号化(E2E暗号化)
運営会社も含め、途中の誰にも中身が読めないように暗号化する方式。本文の「送る人と受け取る人だけが読める暗号化」のこと
メタデータ
中身ではなく相手・日時・回数などの付随情報。Signalはこれもサーバーに残しにくい設計
Sealed Sender
Signalがサーバーに送信者を知らせない仕組み(Signal公式ブログ)
IPアドレス
インターネットにつながった機器に割り当てられる番号。WhatsAppが集める「接続の情報」に含まれる
Letter Sealing
LINEのエンドツーエンド暗号化機能の名前

ブラウザと広告ブロック: Brave / Firefox / uBlock Origin

なぜ安全か: 広告や、行動を追跡するプログラムは、偽広告によるウイルス感染の入り口にもなります。Braveは最初から追跡と広告をブロックするブラウザで、Chromeと同じプログラムをもとに作られているため、Chromeの拡張機能がほぼそのまま使えます。uBlock Originは、設計図(プログラム)が公開されている広告・追跡ブロックの拡張機能です。

注意: Chromeは古い拡張機能の仕組みを終了し、フル機能版のuBlock Originは2026年8月31日にChromeウェブストアから削除されました。Chromeで使えるのは機能を絞った「uBlock Origin Lite」です。Edgeも2026年8月から同じ移行を始めています。フル機能版はFirefoxで使えます。Braveは、uBlock Originなど一部の拡張機能をChromeウェブストアとは別に自社で配布していて、設定画面から有効にできます。ただしBrave自身は「できる範囲での対応」としています。Braveは標準の広告ブロックだけでも十分なことが多いです。uBlock Origin (GitHub) / Brave公式ブログ

検索: Brave Searchは「利用者のプロファイル(好みや行動の分析記録)を作らない」と公式に説明しています。また、自社で一から作った検索用の索引を使っています(設定でGoogleの結果を混ぜる機能もあり)。DuckDuckGoも利用者を追跡しない方針ですが、通常の検索結果の多くはBing由来です。Brave Search / DuckDuckGo

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マルバタイジング
広告を悪用してウイルスに感染させる手口。本文の「偽広告によるウイルス感染」のこと
追跡スクリプト
サイトに埋め込まれ、どのページを見たかなどを記録して外部に送るプログラム
Chromium
Chromeのもとになっているブラウザのプログラム。BraveやEdgeもこれで作られている
オープンソース
誰でもプログラムの中身を確認できる形で公開されたソフト。uBlock Originはオープンソースのコンテンツブロッカー
Manifest V2(MV2)/ Manifest V3(MV3)
Chrome拡張機能の旧仕様と新仕様。本文の「古い拡張機能の仕組み」がManifest V2。新しいMV3では広告ブロックの機能が制限される
インデックス
検索エンジンが集めたページの一覧。本文の「検索用の索引」のこと。Brave Searchは独自のインデックスを使う

Braveが自社で配布しているManifest V2拡張機能は、AdGuard・NoScript・uBlock Origin・uMatrix の4つです。Chromeウェブストア版とは別のもので、設定画面(拡張機能 → Manifest V2 拡張機能、brave://settings/extensions/v2)から入れます。Braveはこの対応を「best-effort(できる範囲で)」とし、Googleの方針や拡張機能の作者の判断で変わりうるとしています。

DNSブロッカー: NextDNS(または Pi-hole)

なぜ安全か: 広告・追跡・危険だと分かっているサイトへの接続を、アプリやブラウザに関係なく端末全体で止めます。サイトの住所を調べる問い合わせそのものを暗号化する方式にも対応しています。NextDNSの無料枠は月30万回の問い合わせまでで、超えると、その月はブロックが止まり、住所を調べるだけの普通の仕組みとして動きます。NextDNS / 自宅で自分で動かすなら Pi-hole。似たもの: Cloudflare 1.1.1.1 for Families、AdGuard DNS。

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DNS
example.com のような名前を、通信先の番号(IPアドレス)に変える仕組み。本文の「サイトの住所を調べる仕組み」のこと。DNSブロッカーは危険なサイトなどの住所を答えないことで接続を止める
IPアドレス
インターネットにつながった機器に割り当てられる、住所のような番号
ドメイン
example.com のようなサイトの名前。「既知の悪性ドメイン」は危険だと分かっているサイトの名前
DoH / DoT(暗号化DNS)
DNS over HTTPS / DNS over TLS。DNSの問い合わせを暗号化して、途中で見られたり書き換えられたりしにくくする方式

NextDNSの無料枠(月30万回の問い合わせ)を超えると、その月はブロック機能が止まり、普通のDNSとして動きます。

VPN: Mullvad

なぜ安全か: アカウントはメールアドレスも名前もいらず、ランダムな番号だけで作れます。通信の中身・接続の記録・あなたのネット上の住所のような番号を残さない方針を公開し、サーバーの仕組みについて外部の専門家による点検(第三者監査)も定期的に受けています。ログなし方針 / Mullvad 監査一覧。似たもの: Proton VPN(ログなし方針の第三者監査を毎年公開・無料プランあり)。

VPNは「通信の出口を変える」道具で、フィッシングやウイルスなどの悪いソフトは防げません。無料VPNの中には利用者の通信を集めるものもあるため注意。

もっと詳しく
IPアドレス
インターネットにつながった機器に割り当てられる番号。VPNを使うと、相手のサイトにはVPNの出口の番号が見え、あなたの番号は見えにくくなる
ログ(ログなし方針)
ログはいつ・誰が・どこにつないだかなどの記録。ログなし方針はそれを残さないという約束
第三者監査
外部の専門家が方針どおりに運用されているかを点検すること
マルウェア
ウイルスなど、コンピューターに害を与えるソフトの総称

決済: バーチャルカード

なぜ安全か: 普段のカードとは別の番号で支払えるので、漏れてもそのカードだけ止めれば済みます。記事で紹介されたprivacy.comは店ごとに別番号・上限額を設定できますが、米国向けです。日本では各カード会社・銀行が発行するバーチャルカード(ネット専用の番号だけのカード)やプリペイド型を、利用通知と組み合わせて使うのが現実的です。

メール: Proton Mail / Gmail

Proton Mailでは、保存されたメールが運営会社も読めない暗号化で守られます。Gmailは迷惑メール対策が強力で、パスキーを設定すると乗っ取りにかなり強くなります。どちらでも「メールのリンクからログインしない」「画像の自動読み込みをオフ」が有効です。Proton

もっと詳しく
ゼロアクセス暗号化
保存データを運営会社も読めない形で暗号化する方式。Proton Mailは保存メールをこの方式で暗号化する
画像の自動読み込み
メールを開いたときに画像を自動で取りに行く機能。画像に仕込まれた仕掛けで、開封したことが送り主に伝わることがある